しゃべる営業は売れない営業
最初から逆説的な表現で恐縮だが、営業トークの極意は「しゃべるな!」ということだ。
失敗する営業の多くは、自分がしゃべりすぎている。
こんな具合だ。
「ご紹介します新商品のコピー機は、多様な多機能コピーが可能となっております。例えば……」
「一番のセールスポイントはスピードです。1分間に30枚は、このクラスでは最速です」
「印字は1000dpiの高品質です。他社の二倍の高精彩なカラーコピーが可能です」
自分だけがしゃべり続け、相手の反応にはお構いなしである。
個別のお客様のニーズを無視して、万人向けの商品説明をするだけなら、カタログと変わらない。
あとは拝み倒すだけだ。これは「お願いセールス」である。
実は、私の自身が、富士ゼロックスでコピー機やファクシミリの営業をしていた新人時代にずっとこのような「しゃべる営業」を続けていた。
自分の言いたいこと、つまり商品の売り込みを一方的に繰り返していたのだ。
いま思えば、売れない営業の典型といえる。
なぜ、そうなるのか。お客様の立場に思いがいかず自社のことしか考えていないからだ。
お客様に売りつけようとするから、後ろめたい。
「お客様に断られたら」
という恐怖感が先に立つ。相手の反応を聞くのが怖いからとにかく自分がしゃべり続けてしまうのだ。
お客様の話を聞くことができないのである。
このころは、むやみに訪問件数を増やして同じセリフを繰り返していた。
闇雲に訪問数を稼いで、受注を得ることを
「犬棒営業」(犬も歩けば……)と呼んでいたが、それはまぐれ当たりでしかない。
売れる営業には法則がある
売れる営業には法則がある。
その第一歩が「しゃべる営業」から「聞く営業」へと転換することだ。
それは、「自社の利益のためにお客様を利用する」という考えから、
「お客様の問題を解決し、成功に貢献する。そのうえで自社も利益を得る」
という発想への転換でもある。
そのことを私に教えてくれたのが、同期入社のY君である。
彼は、いつも素晴らしい営業成績を残していた。私はY君が担当する地域の後任となり、
引き継ぎのための同行訪問をすることになった。
そこで見たY君の手法は、私の「お願い営業」とはまったく違うものだった。
ある部品メーカーに行ったときのことである。
Y君「コピー機をお使いになって、何かお困りのことはありませんか?」
客「用紙トレーはA判とB判が4種類あるんだけど、用紙をしょっちゅう補給しなければならないんだよ」
Y君「4種類の用紙がなくなるのは、均等ではないのでは?」
客「そうなんだよ。言われてみると、使うのはA判ばかりだから、いつも同じトレーがなくなるんだ」
Y君「いまのお話を伺うと、B判用紙はあまり使わないようですね。
うちのこの商品は二種類しか用紙トレーがないのですが補充できる用紙の枚数が多いので、現状より紙切れは少なくなりますよ」
商品の機能をアピールするのではなく、質問を重ねていくことでお客様が抱えている問題点を聞き出し、改善策を提案していく。
本来の営業の仕事は、お客様が何を欲しているのかニーズを掬いだしてそれを解決することなのだ。
Y君のトークには立て板に水のような滑らかさはない。むしろ訥弁だ。
しかし、必要な情報を聞き出す営業手法によりライバルとの競合には負け知らずだった。
営業マンには、流暢なトークでお客様を感心させることなど必要ではないのだ。